電子契約の導入に向けた課題とは?(その2)

2021年8月1日

(写真:ぱくたそ)

電子契約の導入に向けて、法務担当者が乗り越えるべき課題とは?

電子契約を普及させて、法務担当者のテレワーク化を推進していくためには、乗り越えるべき課題がたくさんあります。
今回も前回に引き続き、企業の法務担当者のみなさんが電子契約を導入しようとしたときに当たるであろう課題に焦点を当てて、筆者が各企業の法務担当者からヒアリングした内容を踏まえながら、筆者自身の主義主張ではなく、「こういう会社が多いようですよ」という情報が伝えられるようにひとつずつ解説をしていきます。
※前回の記事については、こちらを参照してください。

課題4 立会人署名方式と当事者署名方式の使い分け基準は?

「テレワークの推進や法務業務の効率化のために、電子契約の導入を進めたい。」「しかし、その一方で従来よりもリスクが高まることは回避したい。」この2つをどうやって両立させていけば良いのか、悩んでいる担当者も多いのではないでしょうか。
前回の記事でも記載した通り、立会人署名方式を使いこなしていかないと電子契約導入の実利を得ることは不可能です。一方で、課題3でも示した無権代理問題などのリスクもあります。
そこで、電子契約の導入を検討していく場合、「どのような基準で立会人署名方式と当事者署名方式を使い分けていけば良いのか」、という議論が多くの企業で起きています。

結論的には、経営に関わる問題を含む契約以外は、すべて立会人署名方式で実施する、という基準にする会社が多いです。

その理由は2つあると考えられます。

1つは、契約内容の実質面での理由です。
例えば、会社を合併する契約、会社を分割する契約、事業を譲渡する契約などの組織上の重要な判断を伴う契約や、出資や資金調達にかかわる契約などについては、たとえ事後的に無権代理の主張ができたとしても、いったん形式上有効に成立させてしまうと影響する範囲が非常に大きくなります。また、この場合には相手方も立会人署名方式で締結することを拒むケースが多いように思います。筆者の知る限り、あるリーガルテックのスタートアップ企業が出資を受ける契約書は、立会人署名方式どころか「紙」で締結されていました。
一方で、通常の取引上の契約であれば、影響する範囲は限定されます。相手方が締結内容に則った行動を取ったことをもって追認しているという整理ができる、ということを根拠にされている会社もありました。

もう1つは、電子契約導入を進めようとする場合の運用上の理由です。
社内で運用を軌道に乗せようとする場合、基準が明確でシンプルであることが極めて大事です。基準が複雑であったり、曖昧であったりすると、契約主管部署の担当者は「面倒だから、紙でいいや」となってしまい骨抜きになります。そうなると、せっかく苦労してシステムを導入したり運用を整備しても無駄になってしまいます。

このような理由から、「経営に関わる内容を含む契約以外」とされることが多いように思うのですが、筆者個人としてはそれでも曖昧だと思います。「取締役会で決議すべき事項以外」など、誰がどう見ても判断がつきやすいような基準にする方が、より実務に携わる方にとって親切な基準であると思います。

課題5 他のワークフローとの連動性

導入する電子契約が決まり、実際に運用を検討すると、契約を締結するためには様々な手続きが社内に併存していることに気づきます。これらと電子契約の締結フローをどうやって連携させていくのか、という課題があります。

プロセスの上流から見ていくと、まずは①法務審査(リーガルチェック)の手続き。
これは昨今、ワークフローを社内で組んでいるケースが多いように思いますが、契約書の内容が固まるところでシステムフローが完了していて、そこから先のプロセスが分断されているケースが見受けられます。とくに、自社で汎用のワークフローをカスタマイズして作っている会社ではこの課題に当たるケースが多くなっています。
一方、昨今出始めているリーガルチェックや契約書の作成支援ツールのクラウドサービス(「Legal Force」「Lawgue」「AI-CON」など)を利用する場合には、「Legal Force」であれば「Agree」と、「LAWGUE」「AI-CON」は「クラウドサイン」とのシステム連携をしているので、こういったサービスを並行して活用することでこの課題から解放されます。これらのシステムの比較は、別の機会に実施したいと思います。
「Legal Force」のリンク
「LAWGUE」のリンク
「AI-CON」のリンク

次に、②稟議決裁の手続き。
これはどこの会社でもすでに存在しているプロセスです。とくにコロナ禍以降においては、電子稟議のワークフローを入れている会社の方が多くなってきた印象です。
稟議決裁については、会社によって規定内容が異なるので一概には論じられません。筆者の所属する会社では、部長決裁のものはワークフローに登録されず、役員決裁以上のものがワークフローに登録されています。(少数派かもしれません・・)
課題になるのは、稟議決裁が完了しないと締結手続きに進めない場合、稟議決裁が完了しているかどうかをどうやって判断するのか、という点です。この点は紙の契約書でも抱えている課題なのですが、電子契約になると「捕捉しにくくなる」ということを言われる担当者が多いように思います。これはとくに立会人署名方式を念頭に置くと理解しやすいのですが、担当者が相手方と勝手に締結するリスクが高まる立会人署名方式では、稟議決裁が先行して実施されているかどうかについてもまた制御できない、ということなのだと思います。
しかし、これは課題3の②でも触れたとおり、電子契約の承認フローに権限者をセットしないと振り出せないようにシステム的に制御することで解決できます。
運用上は、稟議決裁が必要なものは先行して起案・承認された稟議番号を電子契約の申請登録の際に備考欄に記載することで、それを承認者が確認するという流れをとれば良いのではないかといける思います。
もちろん、お金をかけて自社の利用する稟議決裁のワークフローと電子契約システムをAPI連携して作り込む手間とコストをかける方がベターであることは、間違いありません。

そして、③捺印申請の手続きです。
会社によっては、依然として「捺印簿」という帳簿のようなものがあったり、「捺印申請書」という書類を回付しているケースも多いのではないでしょうか。
これは結構シンプルな話で、電子契約の捺印申請については、「捺印簿」や「捺印申請書」は電子契約システム内のフロー承認行為をもって代えることができる、という整理をすれば問題ないです。社内の捺印規程を変える必要がある場合もあるとは思いますが、同じ意味の業務を二重化する必要はありません。ここは迷わず規程の変更で良いのではないでしょうか。

実はさらに、締結後の契約管理との連動の問題があります。
この点については、紙の契約書との管理の多元化回避のほか、異なる方式の電子契約の管理を統合するという点からも検討する必要性もあり、以外と複雑ですし実務上は大きな課題になってくる部分です。そのため、次回の記事ではこれに絞って詳細に記載したいと思います。