電子契約の導入に向けた課題とは?(その3-締結後の契約管理の課題)

2021年8月1日

(写真:ぱくたそ)

過去2回にわたって、電子契約を導入する場合にユーザー企業側で課題となる点を紹介してきました。
今回は、電子契約導入後における契約管理の課題についてです。

ちなみに、前回までのブログは下記をご参照ください。
電子契約の導入に向けた課題とは?(その1)
電子契約の導入に向けた課題とは?(その2)

電子契約によって顕在化する電子と紙の二重管理の問題

さて、めでたく電子契約を導入することになった場合、そこからすぐに直面する課題があります。

それは、締結後の管理データベースが二重化してしまう問題です

電子契約を導入したからといって、新たに締結する契約がすべて電子契約になるわけではない、というのが多くの企業の実情だと思います。いや、むしろ電子契約の方が少数派になる可能性の方が高いです。
保険契約などサービス提供者側がコントロールできる特定フォームの契約が大量発生する場合は別として、通常の様々な契約書については、いきなりすべてを電子契約に移行できるわけではありません。私がヒアリングした企業のなかでは「新規契約の6割は電子契約になっている」という外資系の会社様がありましたが、それが最高記録です。
また、すでに過去に締結している契約書については、その大半が紙で締結されている企業が多いと思います。

電子契約で締結した契約は、サービスベンダー側のシステムに蓄積されて、検索することが可能になります。ベンダーによっては、この中に契約内容を管理できるインデックスを設定することができるようになっていて、簡易な契約管理がシステム上でできるようになっています。

しかし、紙で締結された契約については、エクセルなど別のデータベース上に蓄積されることになります。
つまり、契約データベースの二重化、分断が生じてしまいます

こうなると、過去に締結した契約書を探す際、まず電子契約を探してみて、見つからなかったら今度は紙の契約書を探すという二度手間が発生します。
あるいは、電子契約も結局はエクセルの管理台帳に入力して、「この契約書は電子契約の方を探してね」というマークを付けて管理することが必要になります。

二重管理になって、非常に手間がかかることには変わりがありません。

さらに言えば、電子契約だって方式が一つではありません。
例えば、自社側は普段クラウドサインで締結していても、相手側からAgreeでの締結やDocuSignでの締結を求められることもあるでしょう。そうなると、「紙と電子」だけではなく「電子と電子」でも管理の分断が加速していきます。こうなっては、捺印のために出社することは回避できても、無駄な入力業務が発生してしまって契約管理業務の業務効率を大きく下げることになってしまいます。
法務部門に所属する方の多くは法的な知見を活かした専門的な知的労働を期待されているにもかかわらず、結局作業的な労働を強いられることになってしまう、という本末転倒なことが発生することになるのです。

必要となる管理データベースの一元化

この問題を回避するために必要なことは、契約管理データベースの一元化です。

締結した契約については、「締結日」「締結先」「開始日」「終了日」「自動更新の有無」「更新または更新拒絶の通知期限日」「原契約などの関連する契約」といった情報をデータベースとして保持し、契約書書面のPDF情報も参照できるようにして、これにもとづいて期日管理を始めとする契約管理をすることが必要です。
また、取引上のトラブルが生じた場合に契約書の細かい内容を確認したり、過去の類似の案件で締結した契約書の文言を参考にすることが必要になることもあるでしょう。
これを効率的に実施するためには、やはり参照するデータベースを1つにまとめること「一元化」が重要です。

では、どのようにしてデータベースを一元化していけば良いのでしょうか。

方法は大きく分けて2つに分かれることになります。
一つは、電子契約のデータベース側に紙契約書の情報も一元化する方法。
もう一つは、紙契約書のデータベース側に電子契約の情報も一元化する方法です。

電子契約のデータベースに一元化する場合

まず、電子契約のデータベース側に一元化する場合を考えてみます。

この場合、新たに締結する電子契約については、クラウドサインなどの契約しているサービスのプラットフォーム上に順次データが蓄積されていきますので、業務を進めていけば自然とデータが蓄積されていきます。
一方で、新たに締結する紙契約については、締結が完了したら都度プラットフォーム上に管理情報を入力していく必要があります。
この入力作業は、結構面倒な作業です。
法務部署で契約書原本を一元管理している企業であれば、会社全体の契約書の管理情報入力を一手に対応する必要があるため、なおさら大変だと思います。

そこで、締結件数が多い企業であれば、捺印申請・リーガルチェックなどのワークフロー上にこれらの管理情報を持たせて、これらの機能から電子契約のサービスプラットフォームへAPI連携してデータを自動移行させることが考えられます。多少の費用はかかりますが、この方法は業務負担が少なくなるので良い方法だと思います。

しかし、このように電子契約のデータベースに一元化する方法でも、残る課題が3つあります。

一つめの課題は、過去に締結された大量の紙契約書をどうやって電子契約のデータベースに移行させるかです。

これを実施するには、
a)過去の紙契約書をスキャニングしてPDFデータを作り、
b)それぞれに対する管理情報のデータを作成して、
c)それらを電子契約のデータベースにインポートする ことが必要となります。
エクセルなどで契約書管理データベース(台帳)をすでに持っている場合や、PDFデータをすでに保有している場合はそれを利用するとよいでしょう。ただし、その場合でもa)のPDFデータとb)の管理情報データを紐付けることが必要です。
過去に締結している契約書の件数が非常に多い場合には、こういった作業は外部の作業会社に委託することが得策でしょう。
委託先によってセキュリティレベルや対応できる作業の範囲に違いあるので、選定には注意を要します。例えば、「自動更新の有無」といった管理情報については契約書の内容を読み解いて判断する必要がありますが、ここまでやれる作業会社とやれない作業会社があります。「スキャニング会社」「入力会社」ではなく、契約書に関するサービスを提供しているベンダーを選択することが重要です。

主なベンダーとしては、下記のようなところがあります。
ワンビシアーカイブズ
鈴与株式会社
セキュリティリサイクル研究所

二つめの課題は、電子契約のサービスプラットフォーム上の機能が限られていることです。

もともと電子契約のサービスベンダーが提供するデータベースは、契約管理の目的で作られていないことが殆どです。そのため、「契約を管理するためには管理できる項目数が足りない」「期日管理のためのメール通知機能がない」といった事態になりかねません。
このあたりは、各社のサービスが進化中ですので事前に確認しておくことが必要となります。

主な会社の関連情報をリンクしておきます。
クラウドサイン(弁護士ドットコム)

三つ目めの課題は、異なる電子契約間でのデータベース統合の問題です

例えば自社でメインで利用している電子契約がクラウドサインだったとして、Agreeで締結せざるを得ない契約があったと仮定すると、AgreeからPDFをダウンロードして手動でクラウドサインに登録する必要があるでしょう。競合となる電子契約間でAPI連携することは期待できないからです。
そのため、自社がメイン利用しているもの以外で電子契約が締結された場合は、それを捕捉して手動で作業をすることが必須となります。

紙契約書のデータベースに一元化する場合

次に、紙で締結する契約書のデーターベースに一元化する場合を考えてみます。

紙契約書のデータベースの方は、文書管理システムを利用することが一般的だと思います。
この場合は、電子契約を締結後に、文書管理システムの方に管理情報と画像データを移行させることが必要になります。
しかし、この場合も、手動でこの移行作業を都度実施しようとすると、大変な手間がかかりますし、間違いや漏れが発生することになります。

そこで、電子契約のサービスと文書管理システムをAPI連携するか、RPAで連携させて自動的に同期させる方法が考えられます。これを構築すれば、電子契約のプラットフォームはあくまで電子契約を締結するためのもの、締結後の管理についてはすべて文書管理システム側で実施するという体制が構築できます。
この仕組みの場合には、電子契約側に一元化する場合と比べて、文書管理システム側の項目数や項目の種類(データ型)は自由度が高いので問題が生じにくいです。また、異なる電子契約を併用していても、それぞれと連携させることは比較的やりやすいので、課題を解決しやすいといえます。

共通する課題:原本管理との分断の問題

上記のように電子契約と紙契約のデータベースが一元化できたとしても、最後に残る問題があります。
それは、一元化されたデータベースと紙契約書の原本管理との分断の問題です。

契約関係のトラブルが生じた場合、最終的には原本を取り出すことが必要となります。
また、そうでなくても失効後のもはや不要となった契約書が未来永劫増え続けることがないよう、適切な時期に廃棄をしていくことが必要です。
このためには、契約書の原本をしっかりと管理していかなければなりません。

多く見かける例として、以下のようなケースがあります。
 ・契約書のデータについては、管理システムでいつでも検索・閲覧できるようになっている。
 ・原本については、取引先別にバインダーにファイリングしている。
しかし、これだけでは、万が一のトラブルの際、契約書の原本をすぐに取り出せない可能性があります。

必要になってくるのは、それぞれの契約書に固有の管理番号をつけることです
管理番号を管理システムの各レコードに付与して、同じ番号を原本にもラベリングすることが必要です。
管理番号さえつければ、契約書原本は取引先別にファイリングするのではなく、発生順(番号順)にファイリングする方がよいでしょう。

そうすることで、原本を探す必要があるときは、管理番号を頼りにファイリング順をたどって探していくことができます。また、ファイリングする際にも番号の最後のところに順次ファイリングしていくだけなので、圧倒的に手間はかからないと思います。

コスト削減のためのコツ(オンデマンドスキャニングの活用)

最後に、こういった契約管理の仕組みを構築する際に、少しでも導入コストを抑えるコツについて記載してみます。

一元化された契約データベースを構築しようとするとき、コスト面・業務負担面で最大のネックになってくるのは過去に締結した紙契約書のデータ化でしょう。
これを少しでも低減する方法について、考えてみます。

契約管理のデータベースに入れるための情報をつくるには、各契約書についてスキャニング(PDF作成)、管理情報の抽出・データ化がそれぞれ必要になってきます。
どうしてもデータベースを作る局面になると、過去のものを含めてすべて綺麗にそろえることが目的化してしまうケースがあります。
しかし、よく考えてみると、後から閲覧が必要になる契約書は、全体のなかでほんの僅かです。私が携わったある企業の場合には、全体の8%しか事後的に閲覧しない状況でした。つまり、92%の契約書は無駄にスキャニングしたということになります。
もちろん、事前にどの契約書が閲覧されるのかが分かればそれに越したことはないのですが、事前にそれを把握することは困難です。

そこで、契約書を倉庫会社に預かってもらって、必要の都度、スキャニングしてデータベースにアップしてもらういというサービスが注目されています。「オンデマンドスキャニング」などと呼ばれることが多いようです。
各社によって違いはありますが、オーダーしてから数時間程度でデータを送ってもらえるケースが多いです。

これを活用すれば、無駄なスキャニング費用を削減することができ、原本管理も併せて対応してもらえます。閲覧の頻度が低い企業であれば、こういったサービスを組み合わせることで、より費用対効果の高い仕組みの導入が可能になります。

このオンデマンドスキャニングのようなサービスを提供する会社としては、以下のような会社があります。
ワンビシアーカイブズ
鈴与株式会社
三井倉庫
セキュリティリサイクル研究所

おわりに

ここまで、電子契約の導入にあたっての課題について、実務者目線で解説をしてきました。
もちろん、ここに記載した以外にも様々な大小の課題があると思います。
大事なことは、契約書というのは個々の企業の活動の一つであって、それぞれの企業ごとに方式・管理方法などが異なるということです。その違いに合わせて、最適な仕組みを構築していくことが必要となります。

筆者の普段の仕事でも、そういった課題を抱える担当者の方と一緒に書庫に入りながら考えるお手伝いも多数していますが、このブログをご覧いただいた方が抱える課題についても、いつか解決のお手伝いができればと思っています。