電子契約の導入に向けた課題とは?(その1-電子契約に関する基礎知識)
目次
電子契約の導入に向けて、法務担当者が乗り越えるべき課題とは?
新型コロナウィルスの影響で、多くの会社で在宅勤務・テレワークが進んできています。
そんな中、「紙を使った業務に対応するために、出社せざるを得なかった」とか、「ファイリングされた書類を確認するために、出社して書類を探した」といった声が聞こえてきます。法務部門ならば、契約書に関する業務がこの代表的なものではないでしょうか。
2020年の春先以降、確実に電子契約に対する関心が高まっていることを実感しています。規制の緩和も進みつつあるなかで選択肢も増えてきていますが、どうも筆者には、ベンダーが言うほどには電子契約が普及しているようには感じられません。他社の法務部門の方とお話をしていても、規模の大きな企業ほど電子契約の導入に躊躇しているように感じられ、まだ悩みを抱えながら情報収集と条件整備を進めている段階のように思われます。
この記事では、電子契約を導入しようとしたときに、企業の皆さんが直面するであろう代表的な課題について記載をさせていただきます。これから電子契約の導入を検討される会社や、いままさに検討している会社のご担当者に読んでいいただきたい内容です。
課題1 そもそも電子契約がどういうものか分からない
①電子契約がどういう仕組みで締結されるのかといった技術的な点や、②電子署名法における位置づけなどの法的な点はここでは詳述しませんが、法務担当者としては①の点をしっかり理解して検討に臨むべきだと思います。少なくとも、自分のところに電子契約で締結されたPDFファイルが回ってきたときに、PDFファイルのメタ情報のどこをどう見ることで、誰がいつ署名しているのかが分かるようにはしたいですね。Acrobat Readerから「署名パネル」を開けばこのあたりは分かります。
個人的には、弁護士ドットコムさんのサイトがわかりやすいのでリンクを貼っておきます。
電子署名とタイムスタンプを確認する(弁護士ドットコムさんのサイト)
課題2 「当事者署名方式」と「立会人署名方式」はどっちがいいの?
電子契約には、当事者双方が認証局に登録している電子署名を電子証明書という形式で付与する「当事者署名方式」と、当事者はベンダーのプラットフォーム上で合意をしてシステムログを残したうえで、第三者であるベンダーが立会人として電子署名を施す「立会人署名方式」があります。
法的な有効性の問題は決着がつきつつあると思います。(下記リンクのQAご参照)
※利用者の指示に基づきサービス提供事業者自身の署名鍵により暗号化等を行う電子契約サービスに関するQ&A(電子署名法3条に関するQ&A)
法務担当者として目を向けるべき点としては、より現実的な問題を無視できません。「そもそも何のために電子契約を導入するんでしたっけ?」ということです。
電子契約の導入については、印紙税の節約がメインの会社(建設関係に多いように思います)を除けば、多くの会社ではテレワークの促進・コロナ禍でも自宅から仕事ができる環境の整備が目的になっていると思います。
この目的に照らしてみると、「当事者署名方式」は現実的な解決策にはなりにくいと思います。
その理由は、相手方に同種の電子署名取得を強制することが極めて難しいからです。1年の間に何回も契約を締結するような固定的な関係の相手方とであればともかく、それ以外の会社との間ではせいぜい年に数回の締結になるのが通常です。一方で、電子署名は毎年取得する必要があり、その取得に費用も要します。自社だけであればともかく、これを相手方に強制することは、力関係によって可能になる相手もいるかもしれませんが、通常は難しいのではないかと思います。つまり、「当事者署名方式」に頼っていると「電子契約は一応やっていますよ。でもほとんどは依然として紙で締結しています。」ということになり、経営側からのお題に応えられない状態になってしまいます。
そのため「立会人署名方式」を拡大せざるを得ないのです。この後記載するように「立会人署名方式」には、いくつかの課題点があります。これに向き合いながら運用ルールを構築して、その割合を増やしていくことが最善の道ではないかと思っています。個人的には、組織内での意思決定手続きと契約の締結手続きは異なるので、前者をしっかり運用して、後者において意思決定が済んでいることが担保できるようにすれば、契約の締結方式そのものは「立会人署名方式」で問題ないのではないかと感じています。
課題3 「立会人署名方式」における無権代理問題って?
他社の法務担当の方とお話をしていても、「『立会人署名方式』は無権代理問題があるよね」という声をよく耳にします。
この無権代理問題とは、簡単にいうと、契約締結権限のない担当者がシステム上で承認処理を行うことができてしまため、形式上は無権限者によって契約が締結されてしまうというものです。これができてしまうと、本当にトラブルになったときに「あの契約は担当者が勝手にやったものでウチは知らない」という事態になってしまいます。
これを回避するためには、いくつかの対策が考えられます。
(対策①) 事前に相手方に権限者を確認しておくこと
この対策は、法務担当者の間の会話でもよく出てくる対策です。事前に相手方に対して「今回の契約を締結する権限を有している方の部署・役職・氏名・メールアドレスをご開示ください」とメールを送って回答を得ておくことで、自社としても注意を尽くしたことを残しておくということになります。
この点についても、弁護士ドットコムさんのサイトがわかりやすいので、下記にリンクを貼っておきます。
電子契約のメール認証と無権代理リスク対策(弁護士ドットコムさんのサイト)
(対策②) 権限者を入れないと振り出せない承認フロー設定にしておくこと
この対策は、主に自社側の承認者を経由しないで勝手に電子契約が締結されないようにする対策です。利用している電子契約の承認フローの設定を工夫することで対応するものですが、具体的なやり方としては主に次のような方法でしょうか。
ア.承認フローの流れを事前に設定して、それ以外は利用できないようにする。
イ.承認フローの流れは自由に設定できるが、フロー内に「承認者」の権限がないと設定できないようにする。
これらの対策は、お使いの電子契約のサービスによって対応が異なります。対応ができるシステムであっても、オプションの契約をして追加費用を負担しないと利用できないケースがあります。
2020年11月現在で確認するところ、Agree(GMOグローバルサインさん)では上記アの機能を使うオプション(月額30,000円)の契約が必要のようです。また、クラウドサイン(弁護士ドットコムさん)ではビジネスプラン(月額100,000円)の利用であれば上記イの設定ができるようになるようです。
Agreeの承認機能オプション(GMOグローバルサインさんのサイト)
個人的には、これらの機能は企業が電子契約を安心して使うためには基本となる機能だと思いますので、オプションではなくて基本機能として搭載してほしいと切に願っています。
以上、まずはこの記事では電子契約導入にあたっての課題を3つ記載しましたが、実はこれ以外にもまだまだ課題として考えるべきことがたくさんあると感じています。次回以降も、この続きを記載していきます。