【実際に計算してみた】契約書管理の費用対効果を高めるコツ
「契約書管理に取り組みたいけれど、何とかして導入コストを抑えたい」
「近い将来、契約書管理に取り組むときに備えて、今からできる準備とは?」
テレワークの恒常化・電子契約の普及など、社会的・技術的な環境の変化があるなかで、昔から存在していた契約書管理の課題が「古くて新しい課題」としてクローズアップされています。
そんななか、いざ導入しようとすると「費用対効果」が合わずに断念する企業に多く出会ってきました。
そのような会社では、第一線の法務担当者は本当に困っているのに、その状況を継続せざるを得ないという選択がなされてしまっています。
この記事では、そんな壁を突破するための方法について、今まで企業の契約書管理のお手伝いをしてきた経験をもとに、お伝えしていきたいと思います。
目次
契約書管理の費用対効果を高めるポイント-導入費用の低減
費用対効果 = 導入効果 - (導入費用+運用費用)
「費用対効果」をプラスにするには、導入効果を上げるか費用を減らすかしかありません。
このうち、導入効果については、データの共有・活用の範囲を拡大するよう検討するにしても、ある程度、その企業の規模・組織・業務で決まってくるので大きく変えることは難しいでしょう。
運用費用についても、システムのランニングコストが中心になると思いますが、ここも選択するシステムに依存するので、大きく変えることが困難です。
そこで、費用対効果をプラスにするために着目すべきポイントは、導入費用ということになります。
契約書管理導入コストの内訳は?
いままで何もしてこなかった企業において、新たに契約書管理システムを導入する場合を想定すると、
以下のようなコストが発生することになります。
①システムの導入にかかる費用
②過去に締結した紙契約書のPDF化(スキャニング)にかかる費用
③システムに登録する管理台帳(インデックス)作成にかかる費用
④システムへのデータの投入(セットアップ)にかかる費用
まずは、それぞれがどんな内容なのか具体的に見ていきます。
①システムの導入にかかる費用
契約書管理システムについては、自社の課題に応じて適したシステムを選択することが必要で、その選択したシステムの導入コストに依存します。
コストも大事ですが、自社のいまの課題を解決できるものを選択するようにしてください。
※契約書管理システムの選択と具体的なサービスの比較については、以前に詳しくまとめていますので、
下記の記事を参照してください。
>>【経験者が教える】契約書管理システム選択のポイント6つ
>>【売る側の人が教える】おすすめの契約書管理クラウドシステム8つ
②過去に締結した紙契約書のPDF化(スキャニング)にかかる費用
紙で締結した過去分の契約書をスキャニングして、PDF化する作業が必要です。
単純な作業なので、複合機で少しずつ自社内で対応することはできますが、次のような点には注意をして進めましょう。
<注意ポイント>
スケジュール | 冊子状になっているので、作業にかなりの時間がかかります。 導入スケジュールに合わせた進捗管理が必要です。 |
品質 | ページの抜け漏れ・画像の傾き・折れなどが発生しないよう 注意する必要があります。画像検査をするのがベストです。 |
ルール統一 | 画像のサイズ(A4に統一するか)、裏表紙の封印だけのページを とるかなど、作成する画像データの仕様を統一する必要があります。 ファイル名もどのようにするかルール付けが必要です。 |
このPDF化作業は、外部に委託するという選択肢もあるでしょう。
③システムに登録する管理台帳(インデックス)作成にかかる費用
契約書は、ただ単にPDF化されていても管理できる状態にはなりません。
そのため、次のような情報を契約書から抜き出してインデックスとしてデータにしておく必要があります。
管理に必要な項目 | 締結相手先、タイトル、契約締結日、契約開始日、契約終了日、 自動更新有無、更新通知期日 など |
※契約書の管理項目については、下記の記事にもまとめていますので参考にしてください。
>> 【簡単】エクセルでできる契約書管理項目と運用ポイント5つ
このインデックスデータ作成も非常に大変な作業です。
また、PDF化作業よりも作業者の判断によってデータに差ができてしまいがちです。
しかも、ここで作成するデータはシステムに登録するものになるので、入力ルールのズレ、項目設計のズレがあると、そのままではシステムに登録できず、後からデータ編集作業が発生してしまいます。
作業のボリューム・質的に、ここは外部委託を積極的に検討すべきところだと思います。
自社で作業をする場合には、次のような点には注意をして進めましょう。
<注意ポイント>
スケジュール | PDF化の作業と同様、導入スケジュールに合わせた進捗管理が 必要です。 |
品質 | 入力誤りには気をつける必要があります。 また、とくに更新通知期日は明確な日付が契約書内に記載されて いないので、判断の誤りが生じがちです。 これを誤ると適切な期日管理ができないので注意が必要です。 |
ルール統一 | ここは絶対に最初からルールを統一してスタートすべきところです。 曖昧にしてスタートすると、後から本当に後悔します。 ・会社名は「(株)」などの省略を使わない ・三者契約の場合には「/」で区切って入力する ・日付情報を西暦「YYYY/MM/DD」で統一する ・自動更新有無は「あり」「なし」で統一する などのルール設定が必要です。 |
項目の統一 | 部署ごとに必要なインデックスが異なるケースがあります。 最小公倍数のインデックス項目を設定して、 項目並び順のフォーマットを統一することが必要です。 |
④システムへのデータの投入(セットアップ)にかかる費用
作成したPDFファイル、インデックスデータを確認・統合して、システムに投入する作業です。
採用したシステムによって、これらを一括登録する機能があると思いますが、自社で対応することも、ベンダー側に委託することもできるでしょう。
自社で対応する場合、経験上、最も注意すべき点があります。
<注意ポイント>
データ一括削除機能 | 誤ってデータ登録した場合や、思った通りに反映されなかった場合、 選択したシステムで一括削除の機能があるかを事前に確認してください。 この機能がない場合は、データ登録作業を委託する方が無難だと思います。 |
契約書管理導入コストの具体的にはいくら?
契約書管理導入の費用は、実際にはいくらくらいかかるものなのでしょうか?
ここでは一例として、下記のような会社をモデルとして考えてみます。
過去に紙で締結した契約書が3,000件ある。
いままではP、DF化も台帳作成もしてきていない。
契約書管理の導入にあたっては、作業は自社内で行って何とかシステム利用にこぎ着けたい。
この場合の導入コストイメージは、ざっくり計算すると次のようになります。
※もちろんページ数や入力項目数によって変わりますので、あくまで参考値としてください。
①システムの導入にかかる費用 | 選択するシステムによって異なります。 ここでは仮に30万円とします。 | 30万円 |
②過去に締結した紙契約書のPDF化 (スキャニング)にかかる費用 | 3,000件 × 10ページ × 40秒/ページ =333.3時間 | 約83万円 |
③システムに登録する管理台帳 (インデックス)作成にかかる費用 | 3,000件 × 8分/件 = 400時間 | 約100万円 |
④システムへのデータの投入 (セットアップ)にかかる費用 | 4時間程度 | 約1万円 |
(合計コスト) | 約214万円 |
この導入初期費用の回収期間を仮に5年間に設定すると、この金額をかけても「費用対効果がある」というには、次のようなことが言えるわけです。
214万円 ÷ 5年 ÷ 12ヶ月 = 1ヶ月あたり35,667円
35,667円 ÷ 2,500円/時間 = 1ヶ月あたり14.27時間
つまり、導入をした結果、毎月14.27時間の業務工数削減に繋がらないと「費用対効果がない」という判断になってしまうわけです。
※毎月のシステム利用料は、選択するシステムによって異なるのでここでは考慮していません。
「1ヶ月あたり14.27時間って、イメージできないのですが・・」
では、法務部門で集中管理している契約書について、他部署からの問い合わせがあった場合を考えてみましょう。
この場合、法務担当者は次のような作業を行います。
契約書を探す → PDF化する → メールで送る → 契約書を元に戻す
この一連のプロセスで1件あたり15分かかるとします。
14.27時間 ÷ 15分/件 = 1ヶ月あたり約57件
つまり、毎月57件以上の問い合わせが発生していないと「費用対効果がない」とされることになります。
ここで経営側の理解を得られずに頓挫する企業が本当に多いのです。
契約書管理導入コスト低減のポイント-普段からの地道なデータ作成
そこで、必要になるのは導入コスト(上記のモデルでは214万円)の抑制です。
上記のモデル企業A社の費用例から分かるとおり、費用の大半はPDFデータとインデックスデータを作る作業が占めています。
実はこのデータを作成するところは、契約書が発生する都度、地道にPDFデータとインデックスデータを作って貯めていけば、導入時に一気に発生せず、固定の人員体制のなかで消化できたはずのものです。
ですので、もちろん、過去にエクセルで契約書台帳を蓄積してきた場合や、PDF化に取り組んできた場合には、その分導入コストが下がることになります。
大切なことは「地道にコツコツとデータを貯めていきましょう」ということです。
そうすれば、データを作成するコストは固定費で吸収されます。
モデル企業A社が、もしも地道にコツコツとデータを貯めてきていたら、導入費用は31万円まで低減することができます。
月に8件くらいの問い合わせが発生していれば、十分に導入効果あり!
ただし、自社で地道にPDFデータとインデックスデータを作る際には注意点があります。
私の経験上、次のような理由で結局データを最初から作り直した会社をたくさん見てきました。
フォーマットや入力ルールがバラバラで、編集作業を行うのに相当の時間がかかることがわかり、結局データの作成をやり直した。
一部だけの虫食いのデータになっていて、どの契約書がデータ化されていないのか棚卸をしないと分からなかったので、結局データを全部作り直した。
それぞれの担当者の方は頑張ってデータを作ってくれているのに、その方法やルールが統一されていなかったためにその苦労が無駄になってしまうのはあまりにもったいないことです。
あなたの会社もそうならないように、スタートを切る前にきっちりとルール整備してください。
データ蓄積がなくても大丈夫-それでも導入コストを下げる2つの方法
ここまで読んでいただいた方の中には、こう思う方もいるかもしれません。
「うちの会社はPDF化もしてこなかったし、契約書台帳も作ってこなかった」
「それでもすぐに契約書管理システムを導入したいが、どうしたらよいのだろうか」
「いま必要なのは、時間もお金もかけない方法なんだけれど」
そういう企業であったとしても、諦める必要はありません。
ここでは、2つの方法をご紹介します。
契約書管理台帳(インデックスデータ)を自動作成する
一つ目の方法は、インデックスデータの作成に手間をかけない方法です。
おすすめは、「LegalForceキャビネ」(株式会社LegalForce)というサービスです。
LegalForceキャビネでは、PDFデータをシステムに登録するだけで自動的に管理に必要なインデックスを生成してくれます。AI-OCRと自然言語処理を組み合わせたものと思われます。
このサービス利用すれば、利用料を支払うだけでデータが自動的にできあがりますので、大変なインデックスデータ作成の作業がぐっと楽になります。
データの精度は完璧とはいかないでしょうが、かなりコストを下げることができる可能性がありますので、これは検討してみる価値がある選択肢だと思います。
必要なときにスキャニングするオンデマンドスキャンサービス
もう一つのおすすめの方法は、導入時にはPDFデータを作成しない方法です。
これは主に倉庫会社系のベンダーが提供しているサービスで、「オンデマンドスキャニング」「オンデマンド閲覧」「オンデマンド電子化」などと呼ばれているケースが多いようです。
具体的には、導入時には過去に締結した紙契約書を倉庫で預かってもらい、閲覧の必要が生じた際に依頼すれば、必要な契約書だけをただちに倉庫内でPDF化してシステムにアップロードしてくれるサービスです。
このオンデマンドスキャニングを利用すれば、導入時のスキャニング作業が不要となりコストを低減させることができます。
これも導入時に検討してみる価値のある選択肢だと思います。
主なサービス提供会社は、ワンビシアーカイブズ、鈴与などです。
両社のHPとも、この部分だけをきれいに説明している部分がないのですが、関連するページのリンクを参考までに貼っておきます。
>> ワンビシアーカイブズの「オンデマンド閲覧」
>> 鈴与の「オンデマンド電子化」
まとめ
ここまで見てきたように、契約書管理を導入する際には初期コストを低減させることがカギになります。
導入に備えて、まずは新たに発生する契約書のPDF化・台帳データ作成に取り組むとともに、それが間に合わない場合には、外部ベンダーのサービスを使うことでコストを低減に取り組むとよいでしょう。
なお、「実際に自社ではどのように進めるべきか分からない」という場合には、無償でご相談に応じております。
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