【5分で読める要約】バニスター効果の語源にもなった「パーフェクトマイル」
目次
「バニスター効果」とは?
「バニスター効果」とは、人間にとって「これは不可能だ」という思い込みが、精神的な限界を作ってしまい、その結果、実際に到達から遠ざけてしまうこと。
逆にいえば、「やればできる」という信念があれば、限界を押し広げていくことができ、目標への到達が近づくこと。
例えば、スポーツの試合前に指導者が選手にかけるメッセージを体系化した「ペップトーク」のなかでも、「君ならできる」「自信をもっていこう」というポジティブな言葉がパフォーマンスをあげるとされています。
バニスター効果も、こういった「精神的な閾値」を押し広げることが、パフォーマンスを向上させることに繋がるという趣旨で捉えることができます。
この語源となった、人類史上はじめて1マイル4分の壁を破るのに成功したイギリスのロジャー・バニスターと同時代に同じ壁に挑んだ選手たち。
これを描いたのが、「パーフェクトマイル」です。
あらすじ
1マイル4分の壁を最初に切ったロジャー・バニスター
時代は、第二次世界大戦が終わった直後の1950年代。
イギリス・オックスフォード大の医学生であるロジャー・バニスターは、1マイル走を4分以内で走るという前人未踏の記録に挑んでいた。
1952年のヘルシンキ五輪で敗れたバニスターは、過酷なトレーニングに挑むことによって記録に挑む。
期待がかかるなか、人々は「不可能だ」と言い、医師は「自殺行為だ」と言う。
事実、ジョン・ランディ(オーストラリア)、ウェス・サンティ(アメリカ)といったライバルたちも同じ1マイル4分の壁に挑みながら、誰も壁を破ることができない。
苦しい練習、記録を上げるための工夫、そして仲間の助け。
1954年5月6日、イギリス・オックスフォード大学の競技場。 そのときは来た。
3分59秒04
バニスターは、ついに当時の世界記録を破り、4分の壁を突破した。
バニスターが壁を破った後-続々と壁を突破するライバルたち
物語は、ここで終わるわけでない。
バニスターが4分の壁を破った後、何がおきたか。
わずか46日後の6月21日、ジョン・ランディが3分58秒の記録を出す。
そして、バニスターとランディは、8月7日、英連邦競技大会で直接対決する。
勝ったのはバニスター。記録は3分58秒8。
その後、1958年にはイギリスのデレク・イボットソン(3分57秒2)、さらには同じ年にオーストラリアのハーブ・エリオット(3分54秒5)と、次々と記録が生まれていった。
この事実は「バニスター効果」なのか?
しかし、この本を読み終えて、私にはひとつの疑問が残りました。
「果たして、バニスターの後、連続して記録が生まれたのは、本当に精神的な限界が取っ払われたからなのか?」
少なくともこの本を読む限り、バニスター以外のライバルたちも、必死に最高のトレーニングをして、最高のパフォーマンスを出そうとしている。
誰一人として、諦めているわけではない。
当人たちは「1マイル4分を切るなんて無茶だ」とは一度たりとも口にしていないし、記録が出てからも「バニスターができたなら、俺にもできる」というような言葉は、どこにもないのです。
「バニスター効果」というと、精神的な閾値が上がることによって、限界が推し広がることだと理解されています。
しかし、当のバニスターとそのライバルたちにとっては、きっと同時代のライバルたちとの切磋琢磨の結果にすぎなかったのではないかと思います。
バニスター効果を単に精神的な態度の問題だと捉えるのは適切ではない、と私は思います。
むしろ、必死に同じ目標に到達しようとする人たちの創意工夫によって、ペースメーカーをつけるという作戦を生んだり、トレッドミルを使ったトレーニング法を編み出したり、トレーニング、コンディション面、レース戦術のレベルが上がった結果なのではないかと。
当人たちの必死のレベルアップを見えない外野からすると、精神的な閾値が上がった見えるのでしょう。
バニスターたちから学べること
バニスターたちから学べることは、目標を設定してそこに対して合理的に努力し続けることの大事さです。
明確な目標、目標を達成するための科学的な方法、これを積み重ねることは非常に重要なことで、日常のビジネスにも活かせる視点なのではないでしょうか。
ただ、初めから諦めているメンバーに対して、間接的にストーリーを語ることでマインドを前向きにさせるためには、「バニスター効果」というフィクションの物語は使えると思います。
きっとそうして「バニスター効果」ができていったのでしょう。
書籍情報「パーフェクトマイル」
ニール・バスコム「パーフェクトマイル」ソニーマガジンズ、2004年
(いまは絶版になっているようです)